チョコドーナツの読み聞かせボランティア記録

子どもたちへのおはなし会の記録です

おはなし会の記録(小学校や児童館等での絵本読み聞かせ、紙芝居、素話など)

読み聞かせボランティア・ステップアップ講座(「こどものとも」第一編集部・印南直樹氏)

 

 図書館と読み聞かせボランティアネットワークの共催で毎年行っている「読み聞かせボランティア・ステップアップ講座」、今年は福音館書店こどものとも第一編集部」から若い編集者・印南直樹氏を講師に迎えた。

 

 「こどものとも第一編集部」では、月刊「こどものとも」「こどものとも年中向き」を作っている。

 

★『はりがね なんになる』

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 最初に、来月初めに発売の「こどものとも年中向き」最新号『はりがね なんになる』を特別に読んでみせてくださった。発売前なので、社外で公開するのは初めてだそう。

 カラフルな針金を組み合わせて様々な動物を作った写真でできている絵本。組み立てる前のバラバラの針金のページと、出来上がって動物になったページが交互に出てきて、一種の当てものクイズのようになっている。要領がわかると、この針金でどんな動物ができるんだろうと当てようと、大人の私達もつい夢中になった。こういうの、子どもも好きだよね。

 それから、その絵本の実際の撮影風景を見せてくださった。こんな舞台裏を見ることはないので、興味深かった。朝から夜中までかかって一気に撮影したそうだ。

 この絵本はコンセプトがはっきりしていたので、企画から発売まで2年程度だったそうだが、普通は月刊絵本1冊作るのに3年ぐらいはかかるそうだ。それを毎月出しているのだから、すごい。

 第一編集部のメンバーは5人。今年発売する分、来年の分、再来年の分、と並行して編集作業を行うので、1人が常に20~30冊の企画をかかえているそうだ。

 

★「こどものとも」の編集方針

① 絵本は楽しむためのもの

 絵本の目的は、知識を与えるためでもなければ、しつけのためでもない。純粋に楽しむためのものであるべき。これは科学絵本でも同じだそうだ。

② 絵本は大人が子どもに読むもの

 絵本は、大人が子どもに読むことにより、大人と子どもをつなぐものである。

そのため、当然音読することを意識している。文体の滑らかさ、リズム感を重視。

大人向けの文章を書くのがうまい作家が必ずしも子どものための絵本の文をかけるとは限らない。むしろ、子ども向けの文を書くのは詩人の方が適している場合が多い。

③ 絵本は子どものために大人が本気で作るもの

 赤羽末吉さんの言葉「相手が子どもであるからこそ手抜きは許されない」

子どもの口に入れるものに気を遣うのと同様、子どもが読むものには気を遣うべき。

 

★ 新人編集者の仕事

 ここで ”こどものとも」ができるまで” ならぬ ”編集者ができるまで” 

についてお話しくださった。

 印南さんが編集部に配属になった初日の仕事は、撮影現場への同行だったそうだ。野外での撮影だったため、印南さん自身のした仕事は、撮影場所の草刈り、弁当を買いに行くこと、パネルを持っていること、などだったが、絵本のページを作るにあたって、作者の方の思いやカメラマンの方の仕事などを目の当たりにして、その光景は今でもはっきり覚えているそうだ。

 また、特に編集については研修もマニュアルも講義もなく、文字通り実地で学ぶ形式だそうだ。印南さんが最初に編集部に入った時にはまだ独身で子どももいなかったため、絵本の読者である子どもたちと直接触れ合うために、週に2回から始めて、最後の方でも月1回2年間は、定期的に保育園を訪れて子どもたちと一緒に過ごす機会を作るようにしたそうだ。

 もうひとつ、新人編集者の仕事として大きなものは、月刊絵本についている「折り込み付録」の編集。ともすると、絵本に挟まっている邪魔なものとしてポイッと捨てられたりするのだが、この付録の編集にも力を入れているものとしては、それは「傷つく」とのこと。

 

★ 企画の始まり

 どんな絵本をつ来るのか、その始まりは主に次の3種類ある。

依頼:編集者側から、作者に、こんな絵本を作ってもらえませんか、と依頼するパターン。

持ち込み:作者側からこれを絵本にして欲しいと原稿を持ち込んでくるパターン。

担当:お馴染みの作者と担当編集者のやり取りの中から、アイディアが出て絵本になっていくパターン。

 また、昔話、わらべ唄、詩、「母の友」に載った短い童話、小説やアニメーションなどから、絵本化する場合もある。

 特別のイベントとして「絵本にしたい話」を公募し、そこから月刊絵本を2冊作った。3000以上の作品が集まり、読んで選考するのも大変だったそうだ。

 

★ 『きょうはハロウィン』(「こどものとも」2013年10月号)

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 印南さんが実際に担当されたこの絵本について、企画から原案、修正、など、編集者と作者の二人三脚でコンセプト、ストーリー、絵、を作り上げていく過程を話してくださった。

 この絵本を作ろうと動き出した頃は、まだハロウィンが日本ではほとんど知られておらず、出版されるころにこんなに盛り上がっているとは思いもしなかったそうだ。

 そして、初めは「こどものとも年少版」として企画したのだが、進めていくうちにストーリー性がある長めの物語として対象年齢の高い「こどものとも」に移行することになったとのこと。これは珍しいパターンらしい。

 

★ 文字の大きさについて

 最後に、質疑応答で「集団への読み聞かせをしているのだが、文字が小さくて読みにくいことがある。もっと大きく読みやすくしてもらえないか」という質問があった。

 それには印南さんは苦笑して「それは作者の方たちとのせめぎあいなんです。」とおっしゃった。

 文を書かれる方はたくさんの文字数を使って書いてくる。また、画家の立場としては文字は絵の邪魔にならないようになるべく少なくしてもらいたい。その葛藤の中、どうしても文字を小さめにせざるをえない場合がある。

 なるほど、そんな事情もあるのだなあと思った。

 

 2時間があっという間だった。どちらかというと、淡々とした地味な話し方で、内容もまじめで、特に面白おかしく話しているわけではなかったが、飽きさせず、みんなを満足させてくださった印南さんに感謝。

 

 その後の昼食会などでうかがったお話から、書き留めてみると・・・

❆ 月刊誌として発行されたうち、ハードカバーの単行本になるのはどのくらいか。

   → 年間12冊のうち、2冊ぐらい。

  それはどのように選ばれるのか。

   → 保育所や幼稚園の先生から聞く評判。感想のおたよりや問い合わせの量。
     定期購読の他にバックナンバー用に3,000冊ぐらい用意しているのだが、
     その売れ行き。などから、人気の絵本がわかる。

❆ 福音館書店の月刊絵本「こどものとも」「こどものとも年中向き」「こどものとも年少版」「こどものとも0.1.2」「かがくのとも」「ちいさなかがくのとも」「たくさんのふしぎ」のうち、一番部数が出ているのは?

   → 「こどものとも年少版」。この年齢向きの競合誌がほとんどないから。

 

 私はもともと福音館書店の月刊絵本は大好きだったが、今回、さらに身近に感じ、ますます好きになった。